対人コミュニケーション場面で相手の主張や意図・感情などを読み取る力に関して、複数の実験を行い、以下のことを明らかにした。 1.児童を対象とした説明文読解の一連の実験から、(1)談話の段落トピックの存在は、談話内の関連情報と無関連情報を区別するために重要であるが、談話全体の主張や結論を把握することに対してはとくに効果を持つものではないこと、(2)各段落の主要情報を考えるスキルを用いてテキストの結論理解に至る処理過程には上位命題を認識する能力が、テキストの全体構造を考えるスキルを用いて結論理解に至る処理過程にはワーキングメモリ容量が関係していることを明らかにした。 2.アイロニーの理解に関して、認知的負荷をかける手法を用いた心理実験結果に基づき、アイロニー環境にある発話は、まず聞き手の自己中心的な視点での語用論的不誠実が認知され、その時点で発話のアイロニーらしさが知覚されること、そしてその後、話し手との共通基盤情報を考慮して、アイロニーでない場合はアイロニーらしさの知覚が抑制されるということを、仮説として提案した。さらに、この仮説の妥当性について、プライミング技法を用いた心理実験により検証した。 3.相手の発話から感情を読み取る力について、プライミング技法を用いた発話理解実験を行い、聞き手は話し手の発話から即時に感情を読み取っていることを明らかにした。また、感情を読み取る力には個人差があり、情動的共感性を測定する心理尺度の「影響の受けやすさ」尺度と相関があること、一方、言語性ワーキングメモリ容量とは相関が低いことを明らかにした。
|