本研究は、子どもと大人が病気の因果性についてどのように理解しているかを素朴生物学における生気論的因果の観点から検討することを大きな目的としている。今年度は大学生と中高年者に焦点をあて、大人がどのような生気論的な考えをもっているかを面接調査し、次のことが明らがになった。 1.風邪の原因として最も重要なものをあげさせ、どうして風邪になるのかを説明させたところ、風邪が感染性の病気であるにもかかわらず、中高年者の方がウイルスに言及しない反応が多い傾向が見られた。 2.大学生ではウイルスという科学用語を使用することがやや多いとはいえ、ウイルスや細菌の性質についての科学的理解があるというわけではなかった。食中毒において症状がでるのが、食べ物を口にした直後でなく数時間後である理由を問うと、細菌の繁殖時間に言及する者は、大学生でも中高年者でも殆どおらず、多くは消化に要する時間を理由としてあげた。 3.疲労と風邪の発症の関係についてはどちらの大人も「関係あり」としたが、その理由は、大学生の方が中高年者よりも[疲労による免疫力・抵抗力の低下(によるウイルスの侵入を阻止できない)]の説明が多かった。 4.意気消沈という心理的要因と風邪の発症の可能性については、大学生の8割、中高年者の9割の者が「ありうる」と回答し、その根拠として多くが[心身相関]や「病は気から」の観点から説明した。心理的ストレスが病気への抵抗力や免疫力を低下させると明白に述べる「生気論的な」説明も見られた。 5.元気な人のそばにいくと自分も元気になる可能性については全員がみとめ、他者への共感を通して活力を得ると考える者が多いことが示された。 6.全体として大学生と中高年者の間で病因の理解に関して大きな差はなく、「ウイルス」「細菌」「免疫力」といった科学用語は入ってくるものの、全体としては生気論的な見方が強いことが示唆された。
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