研究概要 |
アナロジーなどの「類似性に基づく思考」に関しては,心理学や認知科学の領域で,これまで多くの先行研究が蓄積されて来た.これらは主として「理解」の文脈での研究であり,「創造」の文脈での研究はほとんど行われてこなかった.そして,理解の文脈でのアナロジーに関する先行研究の成果を,創造活動の解明のために適用しようとすると,いくつかの不具合が生じてしまうことが分かってきた.それは,既知の事例を当てはめることによって新しいものを理解するという従来のアナロジーのモデルでは,既知のものから新しいものを生み出す創造活動の説明が十分にはつかないからである.そこで本研究では,アナロジーなどの「類似性に基づく思考」の裏返しとして,「差異性」に着目し,創造の文脈における「ずらし」,すなわち,既知のものから差異を生み出す「差異性に基づく思考」が,創造のための鍵となると考えた.そして,その「ずらし(差異性に基づく思考)」のメカニズムを心理学的に解明することを本研究の目的とした.まず18年度は,申請者らが実施した,現代芸術家の創作プロセスに関するフィールド研究のデータを利用し,その中から2名の芸術家のケースを取り上げ,創造のための認知操作という観点から詳細な事例分析を行った.その結果,(1)「ずらし」という認知操作には,二つのタイプが見られること,(2)「ずらし」という比較的短期的時間スパンの活動と,「創作ビジョン」のような長期的時間スパンの活動との相互作用によって創作プロセスが進行すること,などが明らかになった.そこでその分析結果に基づき,当初の実験計画を修正し,新たな実験計画を立案した.現在は,予備実験を行い実験計画の細部を調整している段階であり,19年度はその計画に基づいて本実験を行う予定である.
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