教科学習において新たに教授される内容が既有知識体系に統合されない場合、その内容は問題解決時に適用されにくい不活性で剥落しやすい知識になると考えられる。そうした事態は誤ルールをもつ学習者に適切なルールを教授したどきに典型的に現れる。本研究では誤ルールを対象に、既有知識体系への統合を媒介するものとしての「納得」の過程に着目した。そして、誤ルールを修正する過程でいかなる教授要因が「納得」を保障するのかについて、2つの実験と研究課題に関連する実験結果を論文にまとめた。 まず、自然科学領域の誤ルールを取り上げ、ルールの根拠であり、誤ルールにとっては反証事例になるはずの象徴事例(言語教材を「pならばqだ」とルール命題形式で記述した場合の後件「qだ」を具体化した事例)を複数用意し、被験者がルールの根拠としての位置づけに納得する程度や誤ルールの修正に及ぼす効果を象徴事例間で比較した。その上で、それらの象徴事例がもつ特徴を明らかにしようとした。その結果、別の説明原理で説明されにくい象徴事例がルールの根拠として納得を得させやすいこと、そうした位置づけへの納得が誤ルールの修正に関与することが明らかになった。また、類似の事例を想起しやすい象徴事例が修正後のルールの転移を促進する傾向が見られた。 2つ目の実験では、幾何学的な内容に関する適用範囲の縮小過剰型の誤ルールを取り上げ、外延の拡大を図る過程でどのような教授方略が「納得」を得させるのかに着目して、形成実験を行った。その結果、学習したばかりのルールであっても、そのルールへの確証度が高ければ、それを論理変換して用いることで、修正ルールに対する「納得」が得られて外延の拡大が促進されることを示唆する結果を得た。
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