学習者が不十分な認識をもつ場合、それを納得の過程を経て修正するための教授方略として、Hashweh(1986)の限界設定(demarcation)の考え方などに基づく補強情報を取り上げた。言語教材は一般に「p→q」というルール命題形式で記述できるが、pとqが因果関係にある場合、学習者がqを規定する主要因であるpを別な要因p'で説明する不十分な認識もつことがある。これを修正するためにp'の妥当性を部分的に認める一方で、その寄与率は低いこと、併せてpがqの主要な規定因であることを説明するのが補強情報である。その命名は、pであることの妥当性を別の観点から説明することで補強の機能をもつと考えられたことによる。 2つの実験では、適切な言語教材(ルール)が教授された直後には適切な認識をもつが、一定期間後に再び不十分な認識に戻るリバウンド現象について、補強情報のリバウンド抑制効果が検討された。取り上げたルールは「需要が商品の価格を決定する」というものであり、大学生の被験者は「コストが商品の価格を決定する」という不十分な認識をもっていた。この認識をリバウンドが生じないように修正するため、高価格である商品を取り上げ、その原因としてコストの寄与率は低く、需要の寄与率が高いことを説明した。その際、具体的な補強情報と抽象的な補強情報のリバウンド抑制効果を、補強情報が与えられない対照群と比較した。その結果、具体的な補強情報の提示が、不十分な認識のリバウンドを抑制する効果が明らかになった。同時に、補強情報の効果的な提示の時期についての検討もなされたが、この点については明確な結果は得られなかった。
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