2つの研究を実施した。研究1では象徴事例の教科の学習内容の理解に及ぼす効果を探った。象徴事例とは「pならばqだ」とルール命題形式で記述可能な言語教材のうち、後件「qだ」の部分を具体化した事例である。象徴事例は、学習者の既存の認知的枠組みに合致した情報となり得ることから、納得の過程を保証する教授方略だと考えられた。そして、誤概念の修正に及ぼす象徴事例の教授効果、及び異なる象徴事例間の誤概念の修正効果の違いについて検討した。学習内容として「水温と気体の溶解度」に関する法則を取り上げ、大学生の学習者は「水温が高ければ気体は溶けやすい」「水温は気体の溶解度に無関連である」という誤概念をもつことを確認した。その上で、「水温が低いほど気体を溶かす」という法則に支配されている3種の現象を象徴事例として、それらの象徴事例間の誤概念の修正効果を調べた。その結果、他の誤った説明原理で説明されにくく、なおかつその現象自体に見聞経験がある象徴事例が最も有効であることが明らかになった。このことは、教科の学習内容を教授するときに、その法則に支配されていることが見て取りにくいが、その法則以外では説明がつかないような現象を象徴事例として用いることが、有効であることを示唆している。 研究2では、外挿と呼ばれる法則の変形操作の誤概念の修正効果を明らかにすることが目的であった。ルール命題「pならばqだ」のうち、前件pを誤ってp'と認識する誤概念において、p(原因)の属性の値を学習者の想定外の範囲に設定する情報を提示することで、pとq(原因)の関係に着目させやすい場合があると考えられた。実験の結果、事前の予想を支持する傾向は示されたものの、材料として用いたテキストが不十分であったためか、明確な外挿操作の有効性は確認できなかった。
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