平成18年度は、3つの点で研究課題を進めることができた。 まず、第一点は、読み聞かせ研究の展望と本研究の課題設定を行ったことである。これについては、滋賀大学教育学部研究紀要第56号(2006)に掲載した。そこでは、子どもの発達において絵本がもつ意味について研究を展望しつつ、読み聞かせに関わる要因として、読み手側の要因、聞き手側の要因、そして絵本の選択の問題について検討した。また、絵本の読み聞かせに関する心理学的研究の変遷を明らかにしながら教育実践のなかで読み聞かせが検討されてくるようになる経過を明らかにした。さらに、発達障害児を対象とした読み聞かせ研究について研究の展望を行い、障害が重くても絵本が楽しめること、また、絵本に集中できるようにするために考案された工夫についても紹介した。しかしながら、発達段階や障害特性を考慮した検討はなされておらず、今後の課題であることを明らかにした。そのうえで、本研究の課題としてADHD児を対象として読み聞かせの研究を行うことの意味づけを行った。また、研究を行ううえでは、「読み聞かせの場面作り」「導入」「読んでいく上で」「読み終わった後で」という4過程において結果を検討していくこと、および、読み手と聞き手のビデオ録画にもとづく詳細な行動分析が必要なことを明らかにした。これらの作業は、研究を進めていくうえでの原点になるものであり、研究の基盤を築くものとして位置づけた。 第二点は、読み聞かせの熟達者に対して行ったアンケート調査である。このアンケート調査は、読み聞かせの熟達者が集う「この本だいすきの会」の協力を得て行ったものである。質問項目は、先に述べた「読み聞かせの場面作り」「導入」「読んでいく上で」「読み終わった後で」という4過程のそれぞれで日頃、配慮していることについて尋ねた。また、聞き手のなかに多動な傾向を示し、読み聞かせに集中しない子どもがいたときは、どのようにしたかという質問などを行った。質問項目は記述形式を中心とした12項目で成り立っている。このアンケート調査用紙の回収は現在進行中であり、興味深い回答が寄せられている。 第三点は、実際に行動指標の妥当性を検討するために、読み聞かせ活動中の読み手と聞き手のビデオ録画を繰り返し行ない、その結果を時間見本法で行動分析をしているところである。その結果によると、読み手について設定した行動指標(どこを見ているかという視点、絵本の内容に関連した意見表出、感情の身体化などの身振り、など)も、聞き手の行動指標(感情の身体化、多動傾向を示す動作、対象操作を伴った行為、絵本の内容を理解した行動の変化、拒否ないしは無関心を示す動作)も発達的な検討をするうえで有効であることが分かった。また、子どもについては、読み聞かせ中の発話分析や、笑いの頻度分析が絵本理解と関連して特に有効であることが明確になりつつある。
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