研究概要 |
親子によって実際によく読まれている絵本の内容を分析するため,日米の公共図書館で1年間に貸し出し回数の多かった絵本を対象とし,絵本の絵・文章における擬人化について日米間の比較を行った。日本は島根県・鳥取県の公共図書館,アメリカはワシントン州ベリングハム市の公共図書館の貸し出し回数データをもとに,日本209冊,アメリカ210冊を抽出した。その中から3歳未満児向け絵本と3歳から6歳未満児向け絵本を評定によって抽出し,対象年齢による違いも検討した。存在論的に区別される人間以外の動物,植物,無生物について,擬人化が行われている絵本の割合を調べた。動物,植物,無生物ともに,日本の絵本の方がアメリカの絵本よりも擬人化された絵本の割合が高かった。また,動物と植物については,3歳から6歳未満児向けの絵本では,擬人化された絵本の割合に日米間で違いは見られなかったが,3歳未満児向けの絵本では,日本の絵本の方がアメリカの絵本よりも擬人化された絵本の割合が高かった。3歳未満児向け絵本で日本の絵本の方が擬人化されている割合が高いことは,ブックリストで推薦されている絵本についての分析結果と同様であり,日本文化においては乳幼児に対して共感的に関わることが志向されていることとの関係が考察された。日本では,言語的シンボルにおいて,「さん」・「ちゃん」という接尾辞の付与で擬人化がなされており,絵本の絵という画像的シンボルでも擬人化がなされる傾向が高い。このことは,人間以外の対象の持つ知覚的特徴と,シンボル面で人間的特徴が共起する傾向が高いということであり,日本の子どもたちにおける生物概念の形成に及ぼす効果についての含意が議論された。
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