本年度は、高機能広汎性発達障害児(以下、HPDD児と略す)の社会性の発達を阻む要因となっている自閉的ファンタジーについて、その発生起源および、自閉的ファンタジーの没入と離脱の契機について検討した。2名のHPDD児の1歳から6歳にわたる諸資料(母親手記、保育記録、幼稚園記録、VTR記録、面接記録など)に基づいて自閉的ファンタジーの内容分析、出現頻度、そして没入と離脱の契機について分析した。その結果、2名の対象児が示す自閉的ファンタジーの内容には、類似した特徴が見られた。すなわち、こだわりの対象が初期の感覚運動的な関わりが中心となる具体的なモノから、内的・表象的な対象へと発達的に変化した。そして、自閉的ファンタジーへの没入現象は、表象水準のこだわり行動が頻発する時期に出現しはじめることがわかった。自閉的ファンタジーの内容もその多くがこだわりに関連していることから、自閉的ファンタジーの起源が彼らのこだわり行動にあることが明らかになった。恐らく、こだわり行動をはじめ諸活動において自我の自由度を保障するために、自由に内的活動を展開できる自閉的ファンタジー世界への傾倒が生じるのであろう。自閉的ファンタジーへの没入については、従来から指摘されている対人的な不安や恐怖に対する防衛機制としての出現契機に加えて、特定の他者の行動モデルを取り込み安定的な二者関係を構築した後に自我の自由度を保障しようとして出現する契機もあることが確認された。また、自閉的ファンタジーからの離脱の契機についても一通りの行動連鎖を終了して離脱するといったHPDD児に特有な強迫性を契機とする場合や、活動水準の低下に伴う被転導性を契機とする場合などが認められた。
|