本年度は対象となる高機能広汎性発達障害児の保護者や担任教師、学習支援ボランティアなどの関係者に対する聞き取り調査によって、自閉的ファンタジーの内容やファンタジーの展開に及ぼす影響因の解明、さらにはファンタジーへの没入や離脱の契機を分析することを通して、自閉的ファンタジーの特徴を明らかにした。対象児が示す自閉的ファンタジーは、直接・間接的にこだわり行動と関係していた。現実場面におけるこだわりが表象世界のファンタジー内容に影響していることが明らかになった。また、ファンタジーの意図的展開には情動が深く関係しており、正負いずれの情動であれ、強い情動と結びついた過去の体験がファンタジーに登場すると、そのことがファンタジーの展開に抑制的に作用した。さらに、自閉的ファンタジーの展開には対象児の言語能力が密接に関係していた。たとえば、アスペルガー障害のように言語によるコミュニケーションを得意とする高機能広汎性発達障害児は、ファンタジーの展開が豊かであり、物語のダイナミックな展開が自閉的ファンタジーへの没入の主たる誘因となっていた。これに対して、言語によるコミュニケーションを苦手とする高機能広汎性発達障害児は、快の情動と直接的に繋がりを持つ体験をファンタジー世界でなぞることで過去の体験を再現し、快の情動を追体験するという特徴が浮かび上がってきた。ファンタジー世界からの離脱については、ルーチン化した物語展開の終結、強い誘因を持つ他の事象への注意転導、さらには他者からの注意喚起など多様な契機が明らかになった。これらの知見に基づいて、自閉的ファンタジーの特徴を包括的に記述した。
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