本研究は、ハンセン病社会復帰者に対する面接調査や自伝分析等を通して、療養施設を退所するまでの過程や心理的経緯、退所後の動向と心理的状況、現在必要とする心理的サポート等を中心に、彼らの生涯発達の過程を明らかにすることを目的とする。 19年度は、これまでの社会復帰者に加えて、復帰後再発し、その治療のため、やむをえず療養所に再入所した方(以下、再入所者と略記)も加えて、検討した。その概要は次の通り。 (1)再入所者の多くが「(結果論ではあるが)十分治療をしてから復帰すべきであった」と語っている。しかし、再入所後も、社会復帰時の経験を自己の中核において生活をしており、他の入所者から一目おかれている場合も少なくない。その一方で、従来からの入所者との関係に悩んでいる人もいる。 (2)社会復帰においては、就職や転居をはじめ、生活場面で病歴について隠さざるをえない場合が多く、それは再入所者でも社会復帰者であっても共通のようである。病歴を隠さざるを得ないとする感覚は今なおなくなってはいないようである。 (3)社会復帰者の多くがかつて入所していた療養所へ立ち寄ったり、近づくのを今なお避けている。退所までのいきさつや、入所者への罪悪感が背景にあるようである。 (4)社会復帰者の大半が高度経済成長期の退所であり、退所後建設業に従事した者が相当数存在するという。このような人のなかで、アズベスト症への不安が高まっている。彼らが医療機関にかかりずらい状況は続いており、医療上の新たな問題となっている。
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