肯定的記憶、否定的記憶に対する眼球運動の役割にいつて検討する目的で、4年制大学学部生男女150名に小中学生時代の快、不快な記憶をについて、想起した際の快度、不快度のともに高い16名を抽出した(男子6名、女子10名)。彼らの快、不快の記憶それぞれについて、映像、認知、その信憑度(0-10)、感情、その強度(0-100)、身体感覚を評価した後、15セットの眼球運動(1セットは40往復)を加え、その間の心拍数を測定した。各眼球運動の後に深呼吸をさせ、気づいたことを報告させた後に次の眼球運動を加えた。15セットの後に、感情強度(SUF : Subjective Unit of Feeling)、認知の信憑件(Validity of Cognition)を測定した。前後×記憶の種類の2要因の分散分析を行った結果、SUF、VOCともに、否定的な感情・認知が有意に低下したが、肯定的な感情・認知は変わらなかった。眼球運動中の心拍数の変動を眼球運動中の40往復を前半10秒、中盤16から25秒、後半31-40秒の3つに分けて、肯定、否定の記憶別に検討した。否定的記憶の心拍数のセット内の変化はセットの進行に連れて変わるかの検討で、セット内前半から中盤にかけて、有意に低下した。一方、セットを積み重ねても心拍数の低下は見られず、長時間の暴露による馴化は起こっていない。同様に、肯定的記憶の心拍数は、セット内前半から中盤にかけて有意に低下した。また、セット間において、最後の13-15セットにおいて有意に低下していた。次に、SUFやVOCで測定される効果が心拍数の変化と関連が見られるかを検討し、SUFのpre-postの変化との相関は1-3セットの前半から中盤、もしくは前半から後半にかけての変化、及び、13-15セットの前半から中盤にかけての変化にのみ相関が見いだせた。否定的な記憶に対しての眼球運動を始めた早々に見られる心拍数の低下がそのセッション全体の効果との関連が大きい。
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