研究概要 |
H18年度は,対人不安者の注意の方向性と解釈バイアスに関する検討を行った。対人不安者は,社会的状況で不安が高まると,自己注目を行い,自分の抱いている否定的な考えや他者から悪く評価されるのではないかという懸念,過剰に興奮している身体の状態といった内的情報に注意が向きやすくなるという特徴がある。そのため外的な情報に注意が向きにくくなると説明されてきた。しかし現実の社会的状況では他者の反応が気になることも多く,内的情報だけでなく外的情報にも注意が向けられていると考えられる。限られた処理リソースの中で多様な情報を扱うために,どのような注意処理が行われているかを検討することで,対人不安者の情報処理の特徴を明らかにすることができる。 面接者の前でスピーチをするという不安状況で,対人不安者が内的情報と外的情報にどの程度注意を向けているかについて実験的検討を行った。面接者はうなずく・のけぞるといった決められた動作を行い,対人不安者がそれにどの程度気づくのかを測定した。主な結果は以下の通りである。 (1)高対人不安者は低対人不安者よりも,内的情報および他者の示す動作にも注意を向けていたと報告した。 (2)面接者の示す動作をどの程度検出できたかについては,高対人不安者と低対人不安者とで違いは認められなかった。しかし,ポジティブ動作の「ほほえみ」の検出が高対人不安者で低かった。 (3)注意を内的情報に向けるか外的情報に向けるかの安定性については,スピーチ状況で不安定になりやすいことがわかった。高対人不安者で不安定になりやすいものの,統計的に有意な差は認められなかった。 以上の結果から,高対人不安者は,様々な情報に注意を向けようとするものの,実際には低対人不安者よりもポジティブ情報を検出しにくいことから,外的情報の処理にバイアスがかかっているといえる。
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