研究概要 |
社会不安者は,社会的状況で自己注目をするために処理リソースが減少し,情報処理が阻害されると考えられる。そのため,外的情報の否定的な側面に偏って取り入れてしまう注意バイアスが生じることが指摘されてきた。社会的相互作用場面では,他者と会話することや人前でスピーチをすることが多いため,話をすることの処理に相当なリソースが必要となるのである。しかし,社会不安者は自己注目や他者の反応へ注意を向けやすいことから,話をするための処理リソースが限られる。これまで検討の中心であったスピーチに比べ会話は,相手に注意を向け,相手の話した内容にあわせて受け答えをしなければならないことから,必要とされる処理容量は多くなると考えられる。そのため,社会不安者の会話量は少なく,認知の歪みと関連していると考えられる。 平成20年度は,会話場面をストレス場面として用い,実験協力者の促しが会話量や不安,他者の動作に与える影響について検討することとした。協力者には,訓練された異性の大学院生を用い,15分の会話を行わせた。会話の前半5分で実験操作を行い,協力者が会話を促す条件と促さない条件を設けた。後半の10分間は,促し量を同程度とし,その時の会話量や相手への印象を測定した。その結果,主観的な不安は促しに関係なく低減するものの,生理的覚醒は促し高条件で低減することがわかった。高不安者は,促し高条件で自発的発言が増加する傾向が認められた。実験協力者の示す動作に対する評価は,ポジティブ動作に社会不安高・低の違いは認められなかったが,ネガティブ動作に対しては社会不安高群で否定的な評価をすることが示された。これらの結果から,社会不安者にとって会話の促しは,自発的発言につながるものの,相手の動作に対する認知的歪みの修整には至っていないことがわかった。
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