本研究は、慢性疾患を持っ子どもを対象として、面接を通して病気についての語りを分析する質的検討と、sense of coherenceの日本版子ども用尺度を作成して量的検討を行うという2系列の調査に、三ヵ年を予定するものである。 平成18年度は、計画の初年度として、おもに次年度以降の本格的な作業に入る前の準備作業に費やしたため、学会等での成果発表の段階までにはいたっていない。 これまでの研究における調査経験から、日本においては欧米のような積極的な調査協力は得にくいため、時間をかけてフィールドとなる病院や対象者となりうる人々との関係を築きながら調査を進めていく必要があることが確認されている。対象者の選択と依頼は本研究課題でも大きな問題であり、結果的に平成18年度においては、この点にかなりの時間を費やすこととなった。すなわち、これまで共同研究の経験がある病院の医師などを通して、さまざまなフィールドの状況を学び、また各疾患の特徴や患者に対応する際の留意点などについても、専門的な助言を受けながら準備を重ねた。さらに子どものsense of coherenceを成人と並行して検討するために、成人の乳癌などの病気体験とsense of coherenceに関する調査の可能性も探りながら、フィールド開拓を進めているところである。 また、筆者がこれまで交流を続けているカナダなどの国外の研究者を直接に訪問する機会を得て、欧米でのナラティヴ研究や健康心理学における質的研究法に関する情報交換や助言指導を受け、本研究の方法の確認等を行っている。 子ども用sense of coherence尺度については、sense of coherenceを提唱したAntonovskyの共同研究者として英語版の子ども用質問紙を開発したDr.Margalitから、日本版作成・使用の承諾を得ている。現在、日本語訳をさらに確認するため、カナダの大学の研究者に協力を依頼するなど、英語へのバックトランスレーションの手配等を進めているところである。
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