臨床心理学の研究法として、質的研究への関心が近年高まってきているが、質的研究の本質的特質やそれを施行する場合に求められる要因については、いまだ明らかにされていない。本研究はこれまでの質的研究についての議論を文献学的に展望検討し、そこから浮かび上がってくる問題に対して、心理臨床の実践を展開する過程の分析と参与的調査研究の検討から、心理臨床における質的研究の備えるべきはずの特質を明らかにし、併せて質的研究と心理臨床の実践展開過程の相互性の様相を示し、それに関わる理論構築を目指すものである。 平成18年度は、まず次のように研究を進め、展開した。 1.国内、海外の質的研究に関する文献を集め、歴史展開をたどりつつ、従来の質的研究について、分析検討を行った。 2.質的研究に関するシンポジュウムを開き、心理臨床における質的研究についての理論的検討、ならびにさまざまなフィールドの実践についての質的研究の方法、展開過程、その結論の導出のありかたについて検討した。 (講師:下山晴彦東大教授、江口重幸東京武蔵野病院精神医学研修部長、田中康雄北大教授、新保幸男東邦大学助教授他) 3.北海道立大沼学園(児童自立支援施設)、舞鶴学園(児童養護施設)、興望館沓掛学荘(児童養護施設)の各施設へ参与的調査研究に二泊三日で3〜4回、合計年11回訪問し、児童並びに職員から、日常場面を共にしての、また、半構造化された面接を通して、被虐待経験からの回復に役立つ要因、家族関係の修復に必要な要因について、調査を進めた。この参与的調査面接、日常生活を共にしての調査研究から、貴重な知見が得られているが、19年度にはこれを継続し、本研究が目的とすることを明らかにする予定である。
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