臨床心理学における研究法として、質的研究への関心が近年高まってきているが、質的研究の本質的特質やそれを施行する場合に求められる要因については、未だ明らかにされていない。本研究はこれまでの質的研究についての議論を文献学的に展望検討し、そこから浮かび上がってくる問題に対して、心理臨床の実践を展開する過程の分析と参与的調査研究の検討から、心理臨床における質的研究の備えるべきはずの特質を明らかにし、併せて質的研究と心理臨床の実践展開過程の相互性の様相を示し、それに関わる理論構築を目指すものである。 1.下山晴彦東大教授・江口重幸東京武蔵野病院精神医学研修部長・田中康雄北大教授の3名を18年度・19年度にわたって講師として招聘し、心理臨床における質的研究についての理論的検討ならびにさまざまなフィールド実践についての質的研究の方法、展開過程、その結論の導出のありかたについて検討した。 2.2年間にわたり、児童自立援施設(1施設)、児童養護施設(2施設)の各施設へ参与的調査研究は二泊三日ないし一泊二日で2〜3回、合計年間7回訪問し、日常場面をともにして、被虐待経験からの回復に役立つ要因、家族関係の修復に必要な要因について調査を実施した。 19年度は、18年度の調査で抽出された要因と併せ、心理臨床における質的研究が備えるべき特質について考察を進めた。 3.精神保健活動が活発で、国民への心理的援助サーヴィスが充実しているといわれるオーストラリアの、シドニーにあるMacquarie大学へ出張視察し、(1)児童福祉や学校での精神衛生向上のためのプログラム作成研究を行っている研究班との討論、(2)聴覚障害者への援助の実際について大学附属聴覚言語研究センターの研究者たちと情報交換、および聴力検査の実際についてデモンストレーションを見学した。
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