研究概要 |
本年度は,偶発記憶に及ぼす情動的情報の処理の効果を検討した。情動的処理の効果を検討するために,記銘情報から喚起される情動に対する共感性,連想される色彩及び情動処理の個人差に注目した。実験1では,記銘文から喚起される情動に対して共感できる程度を評定させる方向づけ課題を行い,その後,偶発自由再生テストを実施した。喚起される情動が快,不快に関わらず,共感できる程度が高いと記銘文の再生率が高まることが明らかになった。この結果は,記憶と情動の関係に,共感が介在することを示したことで新しい知見である。実験2では,記銘語から連想される色彩名もしくは単語との関連性を評定させる方向づけ課題を行い,その後,偶発自由再生テストを実施した。記銘語の快,不快に関連なく,色彩と記銘語の関連性が強い場合には,弱い場合よりも記銘語の再生率が高く,単語と記銘語の関係においても同じ結果が得られた。この結果は,色彩情報であっても,記銘語を認知構造へ統合する援助として有効であることを新たに示唆したものである。ただし,快と不快の違いが認められなかったので,実験3では,記銘語から連想される色彩名もしくは単語を生成させる課題を用いたが,快と不快による違いは明確ではなかった。これらの結果からは,記銘語から喚起される情動によって色彩情報の有効性が異なるという可能性を示せなかった。実験4では,情動を処理する能力の個人差に注目した。ここでは日本版ESCQ(Emotional Skills & Competence)(Toyota, Morita, & Taksic, 2007)にて情動知能の個人差を測定し,情動知能の高い群と低い群による違いを検討した。その結果,情動知能の高い群では,喚起される情動が快,不快,中立に再生率の違いはなかったが,情動知能の低い群では喚起される情動が中立の場合に再生率が低下した。この結果は,情動知能の個人差が記憶に与える影響を新たに示したことになる。
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