物体を認識する際に最初にアクセスされる記憶表象のレベルをエントリーポイントという。通常、エントリーポイントは基礎レベルであるが、顔などその認識に熟達している場合は、下位レベルもエントリーポイントとしての機能を持つようになることが示されている。しかしながら、これまでの研究では、熟達することによって複数のエントリーポイントを持つようになるのか、エントリーポイントが基礎レベルから下位レベルに移行するのかという点については明らかになっていない。平成18年度はこの点について呼称課題を用いて明らかにすることを試みた。その結果、基礎レベルがエントリーポイントとしての機能を失っている証拠は見いだせなかった。平成19年度は検証課題を用いてこの問題を検討した。 実験では、刺激として、有名人の顔写真とトリ、イヌの写真を用いた。さらに、フィラー刺激としてサルとネコの写真を用いた。参加者には、まず、刺激名称が基礎レベル(ヒト、トリ等)か下位レベル(人物名かトリ等の種類名)で提示され、その後、刺激写真が提示された。参加者の課題は、提示された刺激写真が先の刺激名称のものかどうか判断することであった。実験の結果、基礎レベルと下位レベルのどちらの場合でも、ヒトのほうが検証に要する時間がトリやイヌより有意に早かった。この結果は、顔認識過程のエントリーポイントが下位レベルに移行しているという説では説明できず、顔の場合、基礎と下位の両方のカテゴリーレベルへの接近性が促進されていることを示唆している。
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