渦巻き図形を回転させると渦巻きが巻く方向や回転方向などにより、渦巻きが拡大したり縮小して見える。このような回転する渦巻き図形をしばらく観察した後で静止図形を観察すると、その図形は順応時とは逆の方向に運動して見える(例えば、拡大して見える渦巻き図形に順応すると静止図形が縮小して見える)。このような現象を渦巻き残効というが、ここで用いる順応刺激は、回転刺激なので、回転残効も生じているはずである。そこで、今年度は、順応刺激として等距離螺旋と等角螺旋の2種類の螺旋図形を用い、螺旋の種類によって拡大縮小残効と回転残効の生じ方に違いがあるのかを検討した。等角螺旋は、中心から周辺にかけて線の勾配が一貫して急なため、こちらの方が拡大縮小残効が大きいのではないかと予想した。一方、等距離螺旋は、むしろ回転残効が強く出るのではないかと予想した。まず、拡大縮小残効の測定を行った。順応刺激は等距離螺旋と等角螺旋。順応刺激の回転速度は速い条件と遅い条件の2条件。検査刺激は、正弦波状に輝度を変調した運動同心円格子で、順応刺激を観察した後で検査刺激を観察し、検査刺激が主観的に静止して見える速度を求め、これを残効量とした。結果は、予測に反して、等距離螺旋の方が拡大縮小の効果が大きかった。次に、回転残効の測定を行った。順応刺激条件は拡大縮小残効の時と同じであった。検査刺激は、ガウスフィルターをかけた十字図形で、右回りもしくは左回りに0.25度/秒ステップで回転した。順応後に検査刺激を観察し、検査刺激が主観的に静止して見える回転速度をもって回転残効量とした。結果は、順応刺激の回転速度が遅い場合は、螺旋の種類の効果はなく、速い場合には、等距離螺旋の方が大きな残効量であった。これらの結果は、拡大縮小残効と回転運動残効に寄与する視覚系のメカニズムが異なることを示唆するものであった。
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