渦巻き図形を回転させると渦巻きが巻く方向や回転方向なとにより、渦巻きが拡大したり縮小したりして見える。このような回転する渦巻き図形をしばらく観察した後で静止図形を観察すると、その図形は順応時とは逆の方向に運動して見える(例えば、拡大して見える渦巻き図形に順応すると静止図形が縮小して見える)。このような現象を渦巻き残効というが、ここで用いる順応刺激は、回転刺激なので、回転残効も生じているはずである。今年度は、視野の上下4か所に運動縞を提示し、運動縞の方位を組織的に変えることで、回転する渦巻き図形と同様の運動刺激を作成し、それを順応刺激として、その順応刺激に順応した後の奥行き運動残効と回転運動残効を測定し、奥行き運動残効に関与する視覚系のメカニズムと回転運動残効に関与する視覚系のメカニズムとの間の関係について探った。実験の結果、4つの運動縞が視野の中心に向かって運動する場合は拡大残効が生じ、逆に、4つの運動縞が視野の周辺に向かって運動する場合は縮小残効が生じた。拡大残効と縮小残効では、前者の方があきらかに残効量が大きかった。また、運動縞の方位が、それらの中間の角度を取る場合には、その角度に応じて拡大縮小残効と回転運動残効が生じた。回転運動残効については、奥行き運動残効があまり生じない角度条件の時に大きな回転残効が得られる傾向があった。また、2つ目の実験として、等角螺旋と等距離螺旋を順応刺激として、同様の実験を行い、螺旋の種類の違いが、奥行き運動残効と回転運動残効に及ぼす効果の違いについて検討した。結果は、拡大縮小残効に関しては、螺旋の違いの効果が見られたが、回転運動残効に関しては、二つの順応刺激の間に差は見られなかった。このことから、奥行き運動残効と回転運動残効とは互いに抑制的な関係もしくは別のメカニズムが寄与していることが示唆された。
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