観察者が頭部を運動させながら、その運動に連動する単一の運動対象を観察するときの対象運動知覚について調べた。心理実験と頭部・眼球運動の計測の組み合わせにより、対象の定位は観察者の頭部と眼球の位置(視線の方向)に依存すること、あるいは、対象速度の評価は対象と頭部の相対的運動方向に依存することを示した。ただし、対象運動距離など、複数の知覚要因の統合のうえで成立するような知覚項目については、頭部運動の効果がみられなかった。したがって、頭部運動が対象運動知覚に及ぼす影響はさほど大きなものではないと考えられる。なお、観察者の頭部運動時に、対象が一時的に静止するような操作をおこなった場合には、観察者は対象運動速度の変化に比較的早く気がついた。 続いて、観察者が頭部を水平方向に往復運動させながら相対運動刺激を観察し、奥行きを知覚している状態(運動視差による奥行き知覚)で、刺激の運動を一時的にゼロにした場合に、観察者がその運動信号の変化に気づくかどうかを調べた。頭部が一方向に動く中での中間位置、もしくは折り返し位置を中心に対象運動静止時間帯を設けた刺激と、静止時間帯はないが頭部運動に対する刺激の相対運動振幅(運動視差量)が小さい刺激の弁別を求める実験を行なった。その結果、正答率は運動静止時間帯とともに上昇するが100%にはいたらなかった。したがって、運動視差量の変化を知覚するためには、視差量変化の持続時間が長い必要があると考えられる。上述の単一対象を用いる場合には、比較的早く速度の変化に気づくことができるので、運動視差におけるこの感度の低下は奥行き知覚の特性に依存していることが示唆される。
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