研究概要 |
平成18年度の研究計画は,以下の3点であった。(1)展望記憶の表象がどのような情報から構成されているのかを調べる調査的研究を行う。(2)展望記憶の包括的なモデルを構築する。(3)展望記憶が時間ベースと事象ベースの両方の性質を併せ持つことを実証的に検討する。 まず,(1)の調査的研究の第一として,大学生を対象とした調査的面接を実施した。具体的には,日常生活の中での「し忘れ経験」や「あやうく,し忘れをしそうになった経験」を思い出してもらい,その時の状況や,し忘れをしそうになった原因について,半構造化面接法を用いて尋ねた。この研究を通じて多くの経験を集めることができたが,日常場面を回顧して質問に答えるという方法では,(2)のモデル化に足るほどのデータを集めるには至らなかった。 そこで本年度は,(3)の実験研究を中心に研究を進め,予備的な実験を除いて3つの実験を実施した。具体的には,展望記憶の標準的な実験パラダイムであるアインシュタイン型パラダイムを批判的に検討し,その方法を発展的に改良することによって,これまでなされてこなかった実験方法を考案することができた。そして,これらの実験を通じて,展望記憶が時間ベースと事象ベースの両方の性質を併せ持つのではないかという本研究の仮説を支持するデータを得た。さらに,この方法の開発によって,これまで実験的に研究することができなかった,「展望記憶の想起手がかりと出会わなかった場合の発的な想起」の性質を明らかにすることが可能になるとともに,その性質の一端を明らかにすることができた。この成果は,大学紀要の論文だけでなく,Association for Psychological Science (APS)の第19回年次大会(Washington DC)でも発表する(事前審査を通り,発表準備中)。
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