研究概要 |
平成18年度では,他者がオドボール課題遂行中に誤反応した場合,その観察者に惹起される脳反応を解析し,エラー関連陰性電位(error-related negativity : ERN)の機能的意義を調べた.実験では2条件を設定した.WinWin条件では,遂行者の正反応によって遂行者と観察者の両者が金銭報酬を受け,誤反応によって両者が金銭損失を被った.WinLose条件では,遂行者の誤反応によって遂行者は損失を受けるが観察者は利得となり,遂行者の正反応によって遂行者は利得となるが観察者は損失を受けた.観察者が遂行者の誤反応を検出した場合,いずれの条件でも観察者の前頭部にERN様の電位が惹起された.さらに,WinLose条件では,遂行者の正反応を検出したことでも観察者にERN様電位が惹起された.包括的エラー検出仮説は,WinWin条件のエラー反応とWinLose条件の正反応でのみERN惹起を予測するが,強化学習仮説はWinWin条件のエラー反応とWin-Lose条件の正反応でのみERN惹起を予測する.したがって本実験の結果はいずれかの仮説を排他的に支持するものではなく,両仮説がそれぞれ基礎を置く脳内情報処理のいずれもERNは反映しうることを示唆している. ERNの機能的意義を検討するうえで,ERNがエラー検出ではなく反応コンフリクト検出を反映する電位である可能性(反応コンフリクト仮説)も検討されねばならない.そこでサイモン課題を用いて遂行者のエラー反応時に,誤反応肢からの筋電位と,誤反応に続いて賦活する正反応肢の筋電位を導出し,両者の重畳の程度とERN振幅との関係を調べた.その結果,ERN振幅は両反応肢の合成筋電位の大きさと独立していることを明らかにした.この結果は,ERNの大きさが反応コンフリクトによって規定されないことを示しており,ERNの機能的意義解明に重要な知見となる.
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