研究概要 |
平成20年度では,それまでの実験結果に基づき,ERNの特性解明を目指した基礎研究を展開させた.先ず,認知葛藤課題遂行中のエラー反応に対して言語的罰刺激を随伴させた場合,負の情動生起に伴ってERN振幅は低下することを示した。この結果は,罰刺激はパフォーマンスに影響を及ぼさないものの,反応モニタリング機能の低下をもたらすことを示している(国際心理学会シンポジウムで報告).さらに,その効果の脳内発生源を推定したところ,罰刺激の影響は前部帯状回のなかでもより吻側部に現れることが示唆された. ERNは脳内ドーパミンと関係が深いことから,ドーパミン作動性ニューロン由来の他の事象関連電位との比較を行った.反応の正誤を知らせるフィードバックを提示すると,ドーパミンと関連の高い刺激前陰性電位(SPN)が,フィードバック提示前に出現する.このSPNとフィードバックに惹起されるFB-ERNを同時測定した結果,被験者の意思決定がより必要とされる条件ではSPN振幅は増大するものの,FB-ERNには大きな変化は生じないことがわかった(米国精神生理学会で報告).この結果から,行為と結果との随伴性は,尾状核の関与によってSPNを増大させるものの,ドーパミンの一過性抑制には影響を与えず,FB-ERNを変化させないことが示唆された. また,質の異なる認知的葛藤課題を比較した結果,干渉効果の強さに伴ってERN振幅は増大することを確証した(米国精神生理学会で報告).さらに動作タイミングのモニタリング機能について,刺激一致タイミング課題を用い,刺激速度と動作速度を操作した結果,刺激速度の影響を受けて陰性電位が変化することを報告した(日本生理心理学会). これらの実験結果はERNの機能的意義を明らかにするうえで重要な知見であり,現在,論文での発表を準備している.
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