研究概要 |
本年度は、図形分類課題を用いて、ポジティブ感情が問題解決場面における対処行動の柔軟性にどのような影響を及ぼすかを検討した。この課題は、呈示された2つの図形の異同を判断するものであるが、異同の基準を実験参加者自身が見つけ出すという課題である。この課題遂行中、予告なしに分類基準を変更することにより、状況の変化を生じさせた。このとき、ポジティブ感情が対処行動の柔軟性に影響を及ぼすのであれば、ポジティブ感情の高い実験参加者は新たな分類基準にすばやく移行すると考えられる。 第1実験では、すべての参加者がセッション中のある決まった時点で基準変更を経験したのに対し、第2実験では、各参加者の基準理解に合わせて基準が変更された。2つの実験の結果、いずれも課題の成績そのものにはポジティブ感情の影響は認められなかったが、ポジティブ感情が高い群ほど回答時間が短かく、ポジティブ感情は問題解決場面において判断をすばやくする効果をもつと考えられた。また、安静時に高いポジティブ感情を持っ実験参加者は、課題遂行中のポジティブ感情とリラックス感が高かった。生理的側面に関しては、ポジティブ感情の高い群ほど、課題遂行中の生理的覚醒が低く、ポジティブ感情がストレスに対する心臓血管系反応の亢進を抑える可能性が示唆された。 このように、ポジティブ感情が問題解決時の心身の負荷を和らげることが示された一方、課題の成績には明白な影響が認められ,至かった。ポジティブ感情は、いくつもの解決策を生み出すような拡散性の思考を要する課題では遂行を向上させるが、限られた情報をもとに正しい分類基準を見つけ出すという本研究の課題のような収束性の思考を要する課題では、遂行に影響をもたらさない可能性を示すものと考えられる。 これらの成果は、2月末に学会誌に投稿し、現在査読中である。
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