研究概要 |
平成19年度までに,聴覚刺激(BGM)を用いた実験と,視覚刺激(ディスプレイの背景色)を用いた実験を行ってきた。平成20年度は,嗅覚刺激(匂い)を用いた実験を行った。 匂いによる文脈依存記憶の先行研究には,Schab (1990), Herz (1997)などがあり,そこで使用された匂いはチョコレート,キンモクセイ,ミント等であった。いずれも匂いの有る条件と無い条件との比較を行い,有る条件の方が記憶成績がよいことが報告された。しかしながら,これらの先行研究では,匂い有りと無しの環境条件の比較をしたことになり,純粋に匂いの文脈依存効果を調べたことにはならない。 そこで,本研究では匂いの有る条件と有る条件を調べることにした。予備調査での因子分析で,最も遠い匂い2対(4種の香料)を選び出し,これを本実験で使用した。4種の匂い対は,セロリとリンゴ,グレープフルーツとコーヒーであった。実験計画は,匂い文脈(同文脈,異文脈)×学習時間(4秒,8秒)の2要因被験者間計画。材料は連想価90以上のカタカナ2音節綴り20個。被験者は大学生64名(1群16名)。 分散分析を行ったところ,文脈は有意でなく,学習時間は有意,交互作用が有意だった。そこで,下位分析を行ったところ,4秒条件で文脈の単純主効果が有意,異文脈条件で学習時間の単純主効果が有意であった。 異文脈条件で学習時間の単純主効果が有意だったのは,平成19年度までに行ってきたBGM,背景色,場所文脈と同じである。また,4秒条件で匂い文脈依存効果が生じたが,8秒条件では生じなかった事の原因として2つの仮説が考えられる。1つはアウトシャイン仮説,もう1つは順応である。そこで,これを確認するために8秒条件での文脈の関数としての系列位置ごとの再生率を調べた。その結果,順応の可能性が高いのではないかと考えられる。
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