研究概要 |
今年度は,本科研費研究の最終年度であり,視覚・嗅覚・聴覚のうちの視覚・嗅覚文脈による文脈依存性の検討を行った。視覚環境情報としてはディスプレイの背景色を,嗅覚環境情報としては匂いを操作した。 匂い実験では,匂い自体の文脈依存効果,かつ多くの匂いに一般化できる効果を調べることを目的とした。このため,多くの匂いから予備調査によって選出した匂いを用い,学習時と検索時の匂いの一致不一致を操作した。さらに,文脈依存効果が生じたとき,学習時間の長さ(提示速度)が,文脈依存効果の大きさに影響するか否かも調べた。文脈条件(同文脈(SC)条件vs.異文脈(DC)条件)×提示速度(4秒vs.8秒)の2要因実験参加者間計画を用いた。匂いは14種類の調合香料の中から,印象評定結果に大きな隔たりのあったもの2対4種類を選出した。4種類の匂いの内ランダムに選出した1種類を学習時とテスト時に提示した場合をSC条件とし,いずれかの匂い対の中の一方を学習時に提示し,他方をテスト時に提示した場合をDC条件とした。実験は,第1セッションは偶発学習,第2セッションは妨害課題,第3セッションは口頭自由再生を行った。実験の結果,学習時間が4秒では文脈効果が生じたが,8秒では生じなかった。この要因として,匂いの順応,文脈手がかりのアウトシャインの2つが考えられる。 背景色実験では,漁田らはこれまでに,記銘項目を1つずつ継時提示した場合について研究成果を報告してきた。その後,1画面6項目を提示10画面,提示回数2回の実験で,背景色が単純に交替するだけでは背景色文脈効果は生起しないが,ランダムに変化すれば生起することを見出した(2008)。本研究ではこの実験を1回提示に変更した追試を行った。1回提示にすると手がかり過負荷となり文脈効果が消失する危険があるため,本研究は学習セッション中に緩衝課題を挿入することとした。その結果,1回提示であっても背景色が複雑に変化することで文脈効果が生じることを見いだした。
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