本研究の課題は、身体運動が課題となる授業を通して、子どもが他の子どもたちと協調できるようになると同時に、自己形成していく過程を、現象学的方法により記述的に解明することである。この課題を遂行するために、本年度は、幾つかの公立小学校において、また宮城教育大学附属幼稚園において、身体運動が課題となる授業や保育場面を見学・記録し、教師からの聞き取りを重ねた。これにより、考察の土台となる一次資料が蓄積された。また、観察可能な経験的(empirisch)次元と、この次元を可能にしている自我や主観の仕組みに関わる超越論的(transcendental)次元とに関して、以下のことが明らかになってきた。 1.経験的な次元に関する知見:或る子どもが、自分に自信を持つようになったり、より高い課題を自分に課したり、自分に厳しくなることと、他者を認めたり、他者と協力できたり、他者の言い分に耳を傾けるようになることとは、全体的に一体となって生じているかのように、或るとき不意に観察者や教師に際立って意識される。 2.超越論的な自我の仕組みに関する知見:上記のことが生じ、自己意識や他者関係に関して、或る子どもが全体的に成長したと観察者に感じられる授業場面においては、とりわけ気分と身体運動とが密接に関連しつつ、重要な役割を演じている。例えば、何かを制作したり表現する楽しさや、それをスムースに実現する身体運動の心地よさ、活動をやり遂げた嬉しさや達成感といった気分の中で、子どもは、自信を持つようになると同時に、他者の活動や表現物にも関心をもつようになったり、他者の意見や表現や行為を、積極的に受け入れるようになる。 3.さらに、これらの知見を踏まえつつ理論的な考察を進めることで、気分に関するハイデッガー哲学が、自己形成と共同体形成を考察する上で、多くの導きを与えてくれることも、明らかになってきた。
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