本研究は、フランスにおける1990年代以降の教育地方分権化政策の下で、各学校の自律性確立が中央・地方の視学制度の評価・支援機能の拡充によって格段に進展し、独自の教育改善サイクルを形成しつつある動向を理論的かつ実証的に明らかにすることを目的としており、最終年度にあたる本年は、教育行政の全体構造に大きな影響を与えた新政策評価制度とその根幹を成す予算組織法(LOLF)の公教育分野への影響関係について検討するため、フランス本国において国民教育省視学官から聞き取り調査と資料収集・分析を行った。その結果、公共政策全領域にわたって業績達成度評価を受けることになった新体制の下で公教育は、英米にみられるような競争原理や市場原理をストレートに教育に持ち込む方向性は採つていないものの、学校毎の業績がこれまで以上に重視され、学校の自律性と責任の拡大という近年のテーマも業績主義の立場から見直しを迫られていることが明らかになった。また新政権下で漸進的に進められている学校選択制度確立の動きとリンクしており、政治変動によって教育政策の根幹も徐々に市場主義に傾斜しつつある傾向も見出せた。 また、視学制度がLOLFの適用によっていかなる機能変容を受けるかについて文献調査を行い、予算並びに政策面での自律性が高まり、同時に教育成果向上が活動の最重要目標に位置づくようになったこと、結果として学校との関係が業績達成を軸に展開するようシフト転換がなされていることを考察した。また、それらを保証する具体的計画と資源(特に人材)不足が顕著であり、今後は要となる視学官育成と彼らの学校との連携の仕方が最重要課題になることを指摘した。
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