文部科学省は21世紀型の学力を、基礎・基本を土台にしながら、そのうえに探求型の問題解決能力や表現力、コミュニケーション能力等を包括した概念として提起し、基礎・基本の学力と探求型の学力は相反するものではなく、相補の関係で把握すべきととらえている。この点は国際学力調査のPISAでも指摘されているものであり、その2つの学力の内容は平成19年4月及び平成20年4月に実施された全国一斉学力調査でも国語と算数(数学)のA問題とB問題に端的に表れている。 このような問題意識から本研究では、(1)福井県における「学力向上」指定校の一つである福井市中藤小学校の事例と、(2)指定校ではないが、PISA型学力の育成を目指している福井大学教育地域科学部附属中学校の事例を中心にした。さらに、これらの探求的な学力は小学生・中学生等だけで求められるものではなく、大学生にとっても不可欠な能力であり、特に将来教師になる学生にとっては絶対的に必要な力である。従って本研究では、大学教育と関わらせて、(3)大学の授業実践における探求型の学力の育成についても事例研究を行った。 以上、3点を中心にして研究を進めたが、明らかになった点は、(1)では公立小学校における児童たちの生活実態を踏まえた粘り強く丁寧な指導が不可欠であり、基礎・基本の習得と応用的・探求的な学力は相互に補い合う関係にあること。(2)では附属中学校という、公立学校とは異なる環境の中で生徒たちは主体的・探求的な学びを展開しているが、その基礎には基礎的・基本的な学力が土台となっていることが明らかになった。(3)では教師をめざす学生が教育実習を行った後の省察の授業の中で、授業づくりにおいて、教科の基礎的な知識を踏まえた探求型の授業をいかに展開できるか、教師主導の授業ではなく児童・生徒主体の授業をいかに創造できるかという課題として検討した。 以上のように、小学校・中学校・大学における探求型の学力の創造は、日本の教育を土台から変革し、21世紀における学びの展望を切り開くものであると考えられる。
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