教育において学習者の他者性は本質的であるにもかかわらず、この特性を見過ごしがちであるがゆえに、教師には他者性を常に意識した倫理的態度が求められる。それゆえ、教員養成課程においても、他者への倫理的態度と実践的な倫理的判断力をいかに涵養するかが重要となる。そのための方途として、(1)実践的な判断力を涵養するための指導法上の工夫、(2)そうした授業にふさわしい評価法の導入、(3)そうした授業が実践可能な担当者の養成が必要である。本研究はこの三点を課題として設定し、具体的な授業モデルを提出することを目的とした。 本研究の成果は次の通りである。 (1)の指導法の工夫に関わって、ケースメソッドが教職倫理教育の指導法の一つとして有効であることが明らかにされた。ケースメソッド授業の場合、学生は倫理的諸問題を自分の問題として考察し、授業のなかで自ら発言するとともに異なる意見と出会いことによって、倫理観を改変・拡張することができる。 一方、ケースメソッドのようなディスカッションを中心とした授業を行う場合、(2)に関わって、妥当な成績評価を行うための基準が必要になる。形成的側面を取り入れた多面的な評価法(自己評価、ピアレヴュー、授業者による評価の導入など)が有効かつ重要であることが明らかにされた。 最後に、(3)に関わって、ケースメソッドのようなアクティヴラーニングを可能とする教授法を実践できる大学教員を養成するためには何が必要であるかが検討された。実践者自らがよい授業を体験する機会を持つことが重要であることが示され、FDや大学院教育の充実が検討された。 以上の成果をもとに、多面的な評価基準を用いたケースメソッドによる教職倫理教育の授業モデルを構想し、研究代表者が担当する授業で実行した。また、将来大学教員になることを希望している大学院生に授業を公開した。 本年度は研究の最終年度にあたるため、成果発表を積極的におこなった。
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