研究課題
基盤研究(C)
本年度は、体育の舞踊教育において、どのように伝統芸能が取り入れられているかについて、現状の調査研究を行った。主に、民間教育団体における舞踊教育の継承について、民族舞踊研究会の取り組みを中心にして検討した。その結果、各地の芸能を、「民族舞踊」として学校教育のカリキュラムに取り入れることは、次のような可能性を持つことを明らかにした。(1)現在、芸能を保存している村の多くは、過疎に悩んでおり、村における芸能の継承に希望が見いだせない地域が増えている。このような状況において、東京をはじめとする各地の学校が芸能を継承しようとすることによって、一部の芸能において、芸能が地域共同体の崩壊の危機を超えて存続し得る可能性が生じている。(2)村における芸能は、村落内部の様々な社会集団によって保持されてきたのであり、共同体の維持再生において重要な役割を果たしてきた。学校において芸能を継承しようとすることは、学校内部の共同性を高める効用がある。(3)ただし、学校での芸能継承は、主に運動会での上演を中心とするため、短時間で踊れるように、さらに男女が平等に出来るような内容へと変更されることが多い。ゆえに、「伝統」の継承というよりは、継承を含む新たな芸能の創造と呼ぶにふさわしい。(4)これらの継承は、民俗学から見ると、非正統的な行為である。地域共同体に固有の文化財が地域を越えて継承されること、その内容が大きく改変されてしまうことは、民俗学が事実上になってきた無形文化財保護の観点になじまないためである。ただしそのことは、裏返すならば、民俗学が新たな理論の創造を暗黙に迫られているという意味では新たな可能性でもある。そもそもほとんどの芸能は、他の地域からの伝播や交流の中で成立してきたのだし、芸能の内容も時代に応じて変化してきたにもかかわらず、その土地の固有の、固定された芸能と見なす傾向があり、その変化を理論化することを忌避してきたからである。
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人文学報(首都大学東京都市教養学部人文・社会系/首都大学都市教養学部人文・社会系,東京都立大学人文学部 編) 381号
ページ: 27-41