今年度は、主に学校をベースとした個別の取り組みについて、訪問調査、文献調査を行った。 その結果、明らかになったことは、学校の統廃合が進んでいる中で、地方においては、一つの学校の通学範囲が拡大しつつあり、それによって、学区内に複数の、時に互いに対抗意識をもつような伝承母体が存在しているということであった。学校で芸能を伝承するといっても、どの芸能を取り上げるのかについて、しばしば対立する地域利害を巻き起こす危険があり、それゆえに、エーサーやよさこいなど地域とは全く関係ない芸能を取り上げた方が、摩擦が起きないという事情があることがわかった。 また、教師はほとんどの場合、学区とは生まれも育ちも異なり、さらに転任のサイクルも短期化していることなどから、地域の芸能にそれほど愛着を持たないという場合も多い。むしろエーサー、よさこいなどの方が、転勤先でも教材として使用できるなどの理由から、好んで選択する傾向がある。 しかし、だからといって、それらを地域の芸能とは異なるという図式で、いわば非本質化して捉えることには誤りがあるだろう。地域の民俗芸能は常に伝播し、変遷していくものであり、いま起きている変化は、むしろ、学校を起点として、様々な地域において、民俗芸能のダイナミックな変動がおきはじめている時期と捉えるべきではないだろうか。実際、学校で取り組まれている新しい芸能が、地域のお祭りの演目の中に取り入れられるといった事態も多く起きているからである。 さらに、新たなコミュニティの形成に、新たにとりいれられた民俗芸能が寄与している場合も多い。これらを通して、地域における民俗芸能の継承に、学校教育が大きな役割を果たしているだけでなく、これまで民俗学者が記述してこなかったような大規模な変化がおこっていることが明らかにし得た。
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