本研究は、フランスにおける初等学校(就学前と小学校)の教育方法の革新の運動を歴史的な展開を明らかにしながら、現在の改革の位相を見きわめようとしたものである。まず、2回の現地調査(4月末〜5月初、2月後半)の成果として、以下のようなことがあげられる。(1)フランスにおける初等教育改革の最近の動向や教育現場の状況について、聞き取り調査や教育現場の見学・観察(パリ市内公立学校)を通して情報を入手した。国際的な学力競争に敏感になっている教育状況が理解できた。(2)教育方法の革新的な実践(実験学校)について、参与観察をしながら、資料閲覧・聞き取り調査を行うことができた。それぞれの実践が地域の状況と密接に関わっていることが分かった。(3)1990年からの学習期制導入に先立つ、1960年代からの実験学校の実践の歴史について、元教員などからの聞き取り調査を行い、文献資料に現れてこない情報を直接得ることができた。実験学校の取組とは、教員の熱心な教育運動の成果であることが理解された。これらの実践には、異質性を特徴とする集団における協同的な学習を開発してきた共通性がある。(4)さらに、最近の学校学習指導要領改正の動向に関する必要な資料収集を行うことができた。とくに、教員や親の教青関係団体・機関からの多様な情報を入手できた。(5)GFEN(フランス新教育グループ)やFNEPE(親と教育者の学校全国連盟)などのアソシアシオン活動の重要性が明らかになった。また、文献資料などを用いて、(1)19世紀からの教育運動団体GFENの活動の歴史と現在の状況の整理、(2)教育に関する統計データを集約した資料一覧の作成、(3)オールタナティブ・スクールや公立の実験学校など教育方法の革新的な学校のリストの作成、及び(4)聞き取り調査の結果のまとめを行った。このような本年度の研究結果をまとめ、成果報告書を作成した。
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