研究概要 |
4年目にあたる本年度は,主に在郷商人の日記である『継声館日記』『重好日記』の分析とフィールド調査をおこなったほか,近世日記の復刻作業が進んでいる地域を尋ねて復刻版の日記を収集し,またそれら日記の書かれた地域を実際に尋ねてみることで,対象地域を広げて日記研究を進める準備を行なった。後者としては,大阪市史料研究会復刻の日記と沼津地方で復刻された日記史料がある。いずれも街の統治にあたった武士の複数の日記である。当初、一橋大学の中内文庫が所蔵する近世日記を中心に,子育てに関わる記述というピンポイントで多くの記事をデータベース化する作業と、フィールドワークによって幾つかの日記を丁寧に子育てという視点から整理分析する作業を並行して進めて見たいと研究を構想した。しかし、実際にはこの数年間でさらにたくさんの日記に出会い収集してゆくことになった。集めた日記をみると、近世日記と言っても公務日誌,家政日記に加えて、農事日誌や学校の日記などまで含まれており,時期と階層によって日記そのものの目的や役割が変化していることが重要なのではないか,と考えるようになった。当初の計画通り家政日記に対象を限定することも考えたが,むしろ近世期に進んだ記録すべき生活諸領域の拡大や分化を『日記・日誌』類が反映しており、どの局面でどのように子どもが記録されるか,されないかという史料論を深める必要を自覚した。今後は,集めた日記一つひとつの丁寧な分析を続けてゆきながら,子どもの記録としての近世日記の史料としての性格について、中内文庫所蔵日記と収集した日記を視野に入れつつ深めておきたいと考えている。
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