研究概要 |
平成18年度は、研究計画に従って理論研究と実証研究を実施した。まず、理論研究では、大学の社会貢献事業の拡大過程を社会学的に検討するために、高等教育組織論、新制度主義経済学の文献を収集し、大学の社会の関係を説明する「構造化論」、「組織フィールド論」、「主人・代理人」の検討を行った。その結果、政府が大学の社会貢献機能に重視することで、大学に自治体、営利団体、非営利団体などと連携させて様々な連関組織が形成されていくプロセスを説明する上で新制度主義による「組織フィールドの構造化」が有効な説明になりうる可能性を探った。新制度主義の立場は、公共政策プログラムとりわけ助成プログラムを受ける個々の団体に対して直接・間接的効果-助成が本来目的とする効果を生んだか一ではなく、そのプログラムによって(1)団体間の相互作用の増加、(2)情報交換の機会や場の増加、(3)公的助成による事業の正当化、(4)共通の目的や利害を共有する「組織フィールド」(界)の形成に焦点化することで、本来、多様で個性的であるはずの大学・地域連関が総体として同形化されていくパラドキシカルな関係が説明可能となり、実証研究の理論的背景の構想を得た。実証研究では、12月に講師以上の国立大学・公立大学教員2,500名に対する大学の社会貢献に関する質問紙調査を実施し(回収率24%)、教員個人の社会貢献事業への参加実態、今後の参加の意欲、大学と地域社会のあり方に対する意見を伺った。その結果、平成12年調査と比較して教員個人の社会貢献事業に関する意識には大きな変化は見られず、社会貢献を独立した大学のミッションとしてみるよりも、教育研究の延長にあるものと捉えていること、しかし社会貢献事業への関心の程度は分野によって大きく異なること、工学系では前回の調査よりも積極的に社会貢献に関心が高いが、人文社会学系の教員はきわめて慎重であることから、組織レベルでの交流事業が個人レベルの交流と無関係に進行している実態が明らかになった。
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