平成19年度は、研究計画に従って理論研究と実証研究を実施した。 1 理論研究では、大学の社会貢献事業の拡大過程を社会学的に検討するために、高等教育組織論、新制度主義経済学の文献を収集し、大学の社会の関係を説明する「主人・代理人」の検討を行った。その結果、政府が大学の社会貢献機能に重視することで、大学に自治体、営利団体、非営利団体などと連携させて様々な連関組織が形成されていくプロセスと同時に、大学組織の内部でヒエラルキカルな構造が成立し、これが社会貢献事業を組織的に支えていることを明らかにした。 2 実証研究では、とくに地方国立大学の社会貢献として客観的に目に見える貢献と、見えにくい貢献を軸に量的・質的データの両面からアプローチした。前者については、地元学生占有率、公開講座数、特許数、地域(自治体・県内企業)からの委任経理金、寄付金データなどを収集し、単に科研費配分額や運営費交付金額だけでは見えない地方国立大学の教育機会保証と地域貢献の役割を明らかにした。見えにくい社会貢献としては、国立大学が立地する県や市への経済効果(消費と雇用)を収集した。 しかし、1992年と2007年に実施した大学教授職調査からは、国立大学と私立大学ともに一般の教員の社会貢献と管理運営への関与時間が15年間に大幅に増加していること、学部や学科レベルという組織の中間部で教員のコントロールが弱まっていること、30代の若手の離職性向が高まっていること、さらに社会貢献の時間増による教育研究時間の圧縮が教員の不満や負担増になっていることも明らかにした。 このことは、社会貢献がこれまでのように教員が個人的に行ってきたものに加えて、大学のミッションとして位置づけられて一般の教員も社会貢献事業のエージェントとして見なされる「主人・代理人」関係に組み込まれている実態が明らかになった。
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