本研究は、日本とフランスにおける高等教育から職業への移行過程について、文化資本の持続効果という観点から、経験的な資料とデータに基づく現代的な特徴と問題点を明らかにすることを目的にしている。出身家庭から受け継がれた面、中等教育までの学習経験から得られた面に加え、特に大学生活を通じて学問、文化、スポーツなどの文化習得を遂げていく側面に着目し、長い時間をかけて身体化される文化資本の特性が、今日の多様化・長期化する大学生の職業移行にいかなる有用性を与えているか、という基本的問いを立てている。 今年度は、フランスで実施された全国調査統計資料を収集・再分析するとともに、日本での先行研究を整理して、上越教育大学と関西私立大学で継続実施している追跡調査を計画・実施した。 フランス国民教育省が実施する中学(コレージュ)入学者を追跡する全国パネル調査の結果について、フランスの伝統的な職業形成の考え方であるメチエ(職人仕事)の概念を導入して執筆した論文(5月刊)をもとに、職業資格研究センター(Cereq)が実施する卒業後職業状況に関する全国調査の結果を再分析し、10月に日仏教育学会その他の研究会で発表を行い、2007年2月に論文1篇を執筆し投稿した。(審査中)そこでは欧州統一基準に向けた大学改革を背景に、メチエの概念に加えて、近年国際標準の能力観として注目されるコンピテンシー(職務遂行能力)の考え方が取り入れられていることを示した。大学教育においては職業専門化が推進され、職業計画の作成と実現化に基づく進路指導プログラムが実践されており、その考え方と内容について3月に研究報告を行い、論文1篇を執筆した。 上越教育大学と関西私立大学の追跡調査については、昨年実施の3年次調査までの過去3年間の結果を分析し、6月に日本高等教育学会で研究発表を行った。その後4年次調査を計画したが、学生の授業履修の関係上、質問紙調査の実施は上越教育大学で行い、関西私立大学では教員へのインタビュー調査によって4年次生の修学・就職状況について把握し、2007年3月に調査報告書(科研中間報告書)(全128頁)を作成した。
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