前年度に行ったフランスの高等教育から職業への移行に関する研究動向の検討、および上越教育大学における4年次目の追跡調査に基づき、本年度は、日仏の大学教育を通じた文化資本の蓄積過程について分析と考察を進めた。5月と9月に学会発表を行った後、各々の内容を論文2篇に執筆した。特に、フランスの伝統的なメチエ(職人仕事)形成と、近年国際的に注目されるコンピテンシー(職務遂行能力)との関係を参照しながら、長期的な文化習得の視点からみた、職業形成面におけう大学教育の効果および有用性を検討した点に特色がある。上越教育大学の事例からも、一元的な文化価値に従属するのではなく、多元的な予期的社会化を通じた可変的で順応主義的な文化資本形成が図られることが明らかになった。 11〜12月には、上越教育大学の過去5年間の卒業生を対象に、学生経験と職業生活の関係に着目した郵送調査を実施した。調査実施にあたり、過去の追跡調査結果のダイジェスト版を同封して調査趣旨の理解を図り、「国立大学法人上越教育大学個人情報保護規定」に基づく卒業者名簿利用申請により、736通の調査票発送を行った。うち246名の回答が得られ、その結果を2008年3月に科研成果報告書にまとめ、5月に学会報告を行うことになっている。教員を中心とする卒業生の結果からは、大学教育→文化習得→職業形成という持続効果の側面だけでなく、大学教育→職業形成→一層の文化習得という付加効果が認められる点に、新たな知見が広がる可能性がある。
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