研究概要 |
「失われた10年」と呼ばれた1990年代初めからの10年間は、戦後の日本社会において一般的であった人生モデルの自明性が崩れてきた時期であった。この時期、高等教育機会が飛躍的に拡大したが、バブル崩壊後の就職氷河期に人口規模の大きい第二次ベビーブーム世代が成人生活を開始した。本研究では、「失われた10年」において日本型の福祉レジームがどのような方向に変化してきたのかをライフコースの比較社会学研究の視点から検討を行っている。ポスト・フォーディズム時代のライフコースの変化に関する欧米の研究を整理した後、JGSSとSSMという2つの全国調査データの分析を本格的に行った。これまで、高齢者と女性に関する研究において一定の成果が得られている。60歳代の高齢層の経済的地位と家族関係については、1995年から2005年まで不就業層の経済的地位は年金制度によって比較的安定していたが、就業層の所得は著しく低下した。また、子どもと同居している高齢者で世帯所得が低い層が顕在化してきた。ただし子どもとの同居は、高齢層にとって生活満足度も幸福度も高めていない。女性のライフコースの分析結果としては、第二次ベビーブーム世代から、30歳までの職業経歴に変化が生じていることが明らかになった。高校卒と大学卒で、非正規雇用の比率が上昇し、従業先の移動が高まっており、大学卒の就業継続傾向も高まっている,晩婚化も進み、女性のライフコースの分節化・複雑化は著しい。女性のライフコースの分析結果は、日本的な「家族主義レジーム」を支えた女性の就業パターンが崩れていることを意味している。しかし、世帯所得の低い高齢層の子どもとの同居は、経済的な困難への「家族主義的」な適応を示している。今後は、欧米で蓄積されてきたライフコースの比較研究を踏まえ、成人男性層を加えた分析によって、「失われた10年」の特徴を明らかにすることが課題である。
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