本研究課題は、我が国高等教育の財政・財務システム研究の一環として、国立大学(国立大学法人)と私立大学(学校法人)の財務比較分析を行うものである。 この目的のため、20年度は、昨年度までに収集した国立大学および私立大学の財務データを体糸的に整備すると共に、各大学の学生数・教員数等の基本データと結合を行った。このようにして構築されたデータベースを用いた分析を進めた結果、今年度は主として次のような成果が得られた。 1.私立大学財務は、消費収支比率が上昇し、帰属収支差額比率が低下するなど、フローにおいては悪化する傾向にあるが、負債比率が低下し、自己資金構成比率が上昇するなど、ストックにおいては安定性を増している。法人化したとは言え、特に施設・設備については政府資金に依存し、減価償却の仕組も確立してない国立大学とは対象的である。 2.政府資金に対ずる依存度は、言うまでもなく国立大学が高く、私立大学が低いが、この依存度の低さの故に、今後、政府資金が例えば年率1%程度削減されても私立大学財務には深刻な影響は及ぼされない(ただし、学生数減少など他の要因による財務状況悪化は予測される)。この点は、向こう15年間を対象としたシミュレーションによっても確認することができた。運営費交付金の削減が国立大学に深刻な影響を及ぼすという島(2007)のシミュレーション結果とは対照的である。 3.国立大学・対・私立大学および国立大学間の資金配分については、2004年の国立大学法人化の前後で比較しても大きな変化は認められない。しがし、個々の教員レベルでの研究費配分については、大きな変化がみられ、教員間の格差が拡大している。
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