本研究は戦前の中等教育・および高等教育諸学校における入学試験のうち、古典分野の出題対象と出題方法を調査研究し、問題作成に関わる根本的な発想と問題点を究明するとともに、現在の高等学校や大学入学試験における古典分野への影響関係を明らかにすることを目的とする。 平成18年度は以下のことを行った。 1.入学試験に関する文献の収集 国立国会図書館所蔵資料を中心に調査および複写による収集を、単行本を対象に行った。ただし、大正期から昭和戦前期発行の資料には閲覧不可のものがあり、調査に支障が生じている。 2.閲覧および収集文献の分析 詳細な分析は進んでいないが、入試問題の内容と受験参考書の対応を検討すると、古典の問題の中心が口語訳にあるという点は変化がないものの、受験参考書の内容が大きく変じているのが分る。参考書による個体差はあるものの明治30年ごろまでは、辞典形式で、試験問題として出題される文章の語彙を抽出し、それに解説を加えるという内容をもつものが多いが、大正に入ると、文法解説などが行われるようになる。現在の受験参考書と同様の、文法、語彙、時代知識といった構成をもつものは昭和20年代前半には現れるので、大正から昭和戦前期の間において受験参考書の内容が変貌したことを推測できる。これは、寺崎昌男らが『「文検」試験問題の研究』(2003)において、「文検」の試験内容と専門学発達史との連関を指摘したことと同様のことが、中学校、高等学校の入試においても確認できると思われる。
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