本研究は、教育実践者・石橋勝治(1911〜1994)の戦後初期における社会科教育実践の特質とその史的背景を探ることを目的として、社会科教育史研究、教育実践史研究という課題意識・観点から、青年教師・石橋勝治の戦前岩手(大船渡、花巻、遠野)における教育実践について、実地調査の作業及びその成果をもとに実証的な研究を行うものである。「社会科教育の開拓者」といわれる石橋は、岩手での約8年間の教師生活においてどのような実践を行い、その生活綴方、郷土教育実践など多様な実践が戦後どのようなかたちで社会科実践として結実することになったのか。本研究では、東北の綴方教育史等についての先行研究の検討や、当時の学級文集や記録など第一次史資料の渉猟・発掘、分析、そして、当時の石橋の教え子への聞き取り調査などの調査を通して、石橋の教育実践の実際とその構造的特質、具体像を検討するとともに、この戦後「石橋社会科」の歴史的背景にあったものは何であったのかを、石橋の教育実践とその思考過程の事実に即して検証することをねらいとしている。 本年度は、石橋の教育実践の実際を示す新たな事実を探すことを中心的課題とし、第一次史資料収集と聞き取り調査という二つの方法を基本とした。そこでは、東北・関東の各大学図書館、県立図書館等への文献・資料収集、及び現地(石橋が在職した花巻、遠野ほか)に赴いての調査が中心的な作業となった。その実態調査・検討の経過、研究方法は以下の通りである。(1)当時の石橋学級の文集や学校文書・記録、綴方同人雑誌や岩手県教育会『岩手教育』等の教育雑誌への石橋の投稿論文等、未見の新資料の渉猟・発掘、収集。(2)当時の石橋学級の教え子等への聞き取り調査。(3)これらから引き出された諸事実を考察、分析検討し、新たな解釈・見解を提示。 本年度はこれらのうち特に(1)及び(2)の作業を行った。これらに関しては、現地(遠野市ほか)小学校に赴いての史資料の閲覧・収集、そして各市町村の図書館等諸機関に赴いての資料閲覧・収集が作業の中心となった。これらの成果としての(3)の段階は次年度の研究作業となるが、これら地域における石橋実践の相互関係性・連続性、そして石橋実践の構造的特質の生成と展開の有り様、石橋自身の思考過程に見るその実践理念の深化・発展の経緯に着目して検討を行い、その成果の一端を日本社会科教育学会全国研究大会等において報告を行なったが、更なる検討を踏まえた成果を、学会学術論文等にて次年度内に公表の予定である。
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