本研究は、教育実践者・石橋勝治(1911〜1994)の戦後初期における社会科教育実践の特質とその史的背景を探ることを目的として、社会科教育史研究、教育実践史研究という課題意識・観点から、青年教師・石橋勝治の戦前岩手における教育実践について、実地調査の作業及びその成果をもとに実証的な研究を行うものである。「社会科教育の開拓者」といわれる石橋の、当時の学級文集や記録など第一次史資料の渉猟・発掘、分析、そして、当時の石橋の教え子への聞き取り調査などの調査を通して、石橋実践の具体像を検討するとともに、この戦後「石橋社会科」の歴史的背景にあったものは何であったのかを、石橋の教育実践とその思考過程の事実に即して検証することをねらいとした。 本年度は、石橋の教育実践の実際を示す新たな事実を探す、第一次史資料収集と聞き取り調査の作業に立って、その資料的事実の分析・検討を行い、研究期間中の一部の研究成果をまとめた。具体的には、当時の石橋学級の学級文集、綴方同人雑誌や岩手県教育会『岩手教育』等の教育雑誌への石橋の投稿論文等、未見の新資料の渉猟・発掘収集、また、当時の石橋学級の教え子等への聞き取り調査等をもとに、石橋実践の諸事実を考察、分析検討し、先行研究にない新たな研究成果を得た。 これらの成果の一端を、拙稿「『生活の問題』と『生活の指導』-花城校初期・石橋勝治の生活教育実践から-」(『岩手大学教育学部研究年報』第67巻、2008年3月)にまとめた。同稿では、新発見の雑誌論稿や学級文集に注目し、同校赴任当初の生活綴方・学級文集実践の実際とその思考過程を検討した。石橋は「つよく心にひびいたくらし」を綴らせ、自らが綴った生活事実から自らを振り返らせ、学級文集で励まし集団で「しつかりとくらしていく」意欲と態度を高め、また学級「協働」の力により「問題の子供」の「心性」と行動に自覚を迫る実践をしていた。石橋の「生活の指導」には生活綴方と教科指導を一体的に捉える「協働」の学級経営への明確な信念があったことを明らかにした。以後、更なる資料分析を踏まえた研究成果を学会学術論文等にて次年度以降に公表の予定である。
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