研究概要 |
本研究の目的は、美術鑑賞文に注目して分析を行い、美術鑑賞領域における熟達化の認知構造について解明し、さらに美術鑑賞文の作成プロセスにおけるさまざまな鑑賞スキル活用のための学習方略ツールを新たに開発し、その有用性と課題を検証することである。本年度は研究の第二段階であり、美術鑑賞スキルの学習プログラムを開発し、以下のような成果を得た。 学習プログラム(5ユニット、10時間〉の内容は次の通りである。(1)鑑賞スキルの理解(1):「クリスティーナの世界」の自由鑑賞文、鑑質スキルの定義の学習、ワークシートによる鑑賞スキルのメタ認知(マップ化)。(2)鑑賞スキルの理解(2):ソフトによる「クリスティーナの世界」の鑑賞文、ワークシートと協同学習での鑑賞スキルの反復練習とメタ認知。(3)複合型鑑賞スキルの理解(1):ワークシートによる「大家族」の分析、複合型鑑賞スキルのメタ認知ど反復練習、文脈形成。(4)複合型鑑賞スキルの理解(2):ソフトによる「ゲルニカ」の鑑賞文、ワークシートによる複合型鑑賞スキルの反復練習とメタ認知、問いに基づく文脈形成。(5)最終鑑賞文:ロールプレイによる、「グランドジャット島の日曜日の午後」の評論文作成。大学生を対象としたパイロット・スタディを行い、鑑賞スキルの熟達指標(鑑賞行為のレベル、スキル率、文脈率)(石崎・王,2008)に基づき、学習前と学習過程、学習後にデータを分けて分析した。 その結果、鑑賞行為のレベルとスキル率で、ともに学習前と学習過程(p<.05)、学習前と学習後(p<.05)、文脈率では学習前と学習後(p<.05)、学習過程と学習後(p<.01)で有意差となり、各指標において鑑賞スキルの熟達化が示唆された。また、学習過程と学習後にみられる転移の状況は事例ごとに異なり、その詳細はレベル、スキル、文脈の観点から特徴づけられた。なお、研究成果の一部は、第30回美術科教育学会(群馬大学)において発表した。
|