研究概要 |
本研究の目的は,美術鑑員文に注目して分析を行い,美術鑑員領域における熟達化の認知構造について解明し,さらに美術鑑賞文の作成プロセスにおけるさまざまな鑑賞スキル活用のための学習方略ツールを新たに開発し,その有用性と課題を検証することである。 本年度は研究の第三段階であり,美術鑑賞スキルの熟達化を促す学習プログラムを拡充して検証を進め,さらに国外の連携研究者を招聘してこれまでの研究成果を多角的な視点から議論し,今後の課題を考察した。 まず,昨年度に開発した鑑賞スキルの学習プログラムの改良を進め,学習者の対象を大学生から中学生までに拡充した。この学習プログラムでは,中学生の発達段階に対応して鑑賞スキルのメタ認知を促すよう工夫し,問題解決型のロールプレイを積極的に取り入れてワークシートを新たに考案した。中学生を対象とした学習プログラムは,ワークシートを中心とした11時間の活動であり,そのパイロット・スタディを実施し,2つの事例分析を行った。その結果,いずれの事例とも学習後に複合的な鑑賞行為が増し,自分の考えが論理的に文章化される傾向が認められ,鑑賞スキルが作品探究方策の一つとなっていることが示唆された。 また,鑑賞スキルの概念やその学習プログラムの開発過程で,継続的に助言を得てきたオハイオ州立大学名誉教授のマイケル・パーソンズ(Parsons,M.)博士を7月に招聘し,連携研究者の王文純博士とともにこれまでの研究成果について多面的な議論を行った。特に,鑑賞スキルにおける解釈行為のレベル概念の明示化とその検証,および鑑賞スキルの転移ついて,今後の課題を具体化した。さらに,本年度の成果については,第32回国際美術教育学会(lnSEA)(大阪)において共同発表した。 なお,研究成果の論文での発表は,Proceedings: The 32nd InSEA World Congress 2008 in Osaka,ならびに『美術教育学』30号において行った。
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