研究概要 |
地域の国際化・グローバリゼーションの進展は,「多重市民権」という新しい市民権概念を生むとともに,歴史教育の役割を国家市民権の教化という精神的でなナショナリスティックな機能から,あくまでも情報の選択とその組み立てという知的で論理的な機能へと転換させることになると考えられる。学習者の立場からいえば,自らが優先する市民権にあわせて,自ら有益と判断する情報を選択し,それを組み立てて「歴史」をつくることが可能になる。原理的にはいくつもの多様な「歴史」が存在する。しかし,それは,一人の学習者が自身のオリジナルな一つの「歴史」を作ればよいという単純なものではない。「多重市民権」は一人の人間が「多重な」市民権つまり「立場」に帰属している現状を示したに過ぎない。教師は学習者にそのことを自覚させることが重要な役割となる。そのため,常に複数の市民権の視座(今日的市民権の成立以前についてもその時代に存在した複数の「立場」)から物事にアプローチするスキル(技能)に習熟させることが必要になる。歴史学習の具体的な実践場面としては,歴史上存在した複数の「立場」から過去を読み解く作業となる。したがって,学習活動においては,常に,いくつかの異なる「立場」から歴史事象や歴史的人物を解釈し,説明する構築的学習活動が必要となる。現在,このような学習活動の具体事例を開発中であり,次年度に於て検証する。
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