研究概要 |
本研究では,旧制高等学校や大学といった高等教育機関における入試現代文をめぐって,その登場から共通一次試験の導入期までを射程に様々な観点から問題編成を試み,大学入試における現代文というものと,大学入学後のリテラシー能力を鍛えていくための方法論をいかに接続することができるかを考察した。大正後期に,高等学校をはじめとする高等教育機関の入学試験に導入されたのち,戦中の国粋主義時代,占領期以降のアメリカ型民主主義教育時代,そして,受験競争が激化した高度経済成長時代を通じて,現代文は,つねに入学試験の主要科目として位置を占めてきた。また,そこには絶えず,文章を「読む」とはどういうことかという問いかけがあり,その能力の向上,および,公平かつ客観的な測定をめざした深化発展の試みがあった。だが,入試現代文の歴史が,文章を「読む」という行為をめぐる試行錯誤の連続であったことも確かである。現代文は,それぞれの時代における様々な外的要因と結びつきながら科目としてのあり方を問い直され,社会状況や同時代思潮の影響を受けながら変遷を続けてきたのである。個々人の能力を測定し序列化しようとすれば,その基準が必要になるのは自明のことである。その基準が刻々と変化するのも致し方ないといえる。この二年間の研究は,そうした歴史的な観点から入試現代文を分析することによって,大学生に求められているリテラシー能力というものが,それぞれの時代ごとにどのような変遷をとげてきたのかを明らかにしようとしたものであり,それについては,『「国語」入試の近現代史』(講談社メチエ)という本にまとめることで一定の成果を得たと考えている。
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