研究概要 |
本研究の目的は,社会科学・人文科学の知見と社会科教育の実践的課題とを融合させるための結節点を検討するための1つの予備的研究として,学校教育法や学習指導要領でのキー表現としても掲げられてきた教育基本法第1条における合成表現「国家及び社会」の含意を解明することであった。 教育基本法制定過程における教育刷新委員会審議,帝国議会での論戦などでその合成表現がどう了解されていたかを考証するなかで,「国家社会」という複合名詞への置き換えがしばしばなされていたことに注目した。そして,「教育制度史料」から,戦前の教育関連法規や文部省通達や審議会答申などにおける「国家及び社会」と「国家社会」の用例を探索した。 さらに,教育基本法制定に中心的役割を果たした田中耕太郎の著述を検討し,田中およびその同時代の論壇の社会観のうち多元主義に連なる部分が,教育基本法第1条の「国家及び社会」という合成表現に結実したことを分析した。 社会科教育に関する各種論議が「国家及び社会」という表現についての分析を放置してきたことが,「国家及び社会の形成者」を国家公民と等置するような短絡的な公民観を横行させてきた原因の1つであり,本研究はそのような短絡的な解釈を否定する論拠を提供する試みである。
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